カラビナの選択方法
ロッククライミングやフリークライミング、アルパインクライミング、雪山登山、アイスクライミング等、岩登りや雪稜、登攀ルートを登る時に様々な場面で様々な使い方をします。カラビナは、アウトドアショップにいくつも並んでおり、フリーカラビナ、安全環付カラビナ、特殊な形のカラビナ、大きさ、重さも様々です。
このページでは、カラビナの使用方法、選び方、特徴等を説明し、どういった観点から選ぶかを説明します。
カラビナの各部位名称
カラビナの大きさと重量
自分に合うカラビナかどうかを決定する要素は、カラビナの大きさと重量です。大きさは手にフィットするかを確認し、重さは軽いほうが良いですが、ルートや使い勝手に関係してきます。小さく軽すぎると、落としやすくなる場合もあり、デメリットもあります。選択のポイント(1) カラビナの大きさ
まず、はじめに手に持って大きさを確認しましょう。グローブを何もはめずに素手でカラビナをもって片手であけられる大きさかどうか、手になじむかどうかを確認します。大きすぎると片手で操作できずに、現場で困ることがあります。フリークライミングやアルパインクライミングでは、片手で開閉の操作をするシーンが多く、カラビナの選択・選定がルート攻略に大きな影響を及ぼすといっても過言ではありません。そういった自分が使うシーンを考えて選びます。たとえば、雪山登山で大きなグローブをはめると両手でも開けづらい大きさがあります。グローブを付けるときはちょっと大きめのカラビナを選択することをおすすめします。また、グローブの種類として、(1)夏山のクサリ場や岩場で使うような皮グローブ(ビレイグローブ)や、(2)雪山登山で使う分厚いオーバーグローブではカラビナの大きさや操作性を考える必要があります。(1)の場合は、まず比較的薄い操作性の良い皮グローブを選択することが重要です。ちょっとでも大きいサイズを選んだり、クライミング用でない厚手のグローブを選択すると、カラビナだけではなく鎖や岩もつかみにくく逆に危ない状況になります。皮グローブをはめて実際のカラビナを開け閉めして確認してください。(2)の場合も実際グローブを着用してカラビナを試すという点では同様ですが、実際の雪山の状態をアウトドアショップで再現することは難しいので、できるだけ操作性が良い(スクリューゲートの安全環付カラビナや比較的大きいカラビナ)ものを選択しましょう。また、練習してカラビナを片手で開けられるようになることが望ましいですが、雪山登山のためのアンザイレンや一般縦走路における登山中の安全確保のために、念のため使用する場合は、両手であけても構いません。逆にオーバーグローブを付けて片手で操作するとカラビナを落とす可能性もあるので十分注意してください。
選択のポイント(2) カラビナの重量(重さ)
次に重さを確認します。最近は軽量化され、肉抜きされたカラビナも目立ちます。特に、多くのカラビナを必要とするクライミングの分野では、1つ1つのカラビナが軽いことにこしたことはありません。50gと30gのカラビナでは、10個持つと500gと300gの差になり目に見える差になります。基本的には、軽いカラビナを選択するようにしましょう。ワイヤーゲートは軽量化するためのカラビナの機能の代表例ですが、その種類によって注意すべき点もあります。古くから採用されているワイヤーゲートのピン・アンド・ノッチというゲートをひっかける仕組みは、ロープやスリング、ギアラック等に引っ掛かり、無理やり外そうとするため、カラビナを落としたり、ストレスになったりする場合があり、初心者は要注意です。
大きさと重さの観点から、ラブジアースで取り扱うカラビナを下に並べてみました。今自分が持っているカラビナと大きさを比べたり、今後そろえたい大きさのカラビナを選定する際に、参考にしてみてください。
ゲートの違いによるカラビナの種類
■ フリーカラビナ一覧
フリーカラビナとは、ゲートに安全環(ロック機構)がないカラビナを言います。ゲートの種類として、ストレートゲート、ワイヤーゲート、ベントゲートがあります。安全環がないため、カラビナを極限まで軽量化できるのが特徴ですが、小さいカラビナは初心者には扱いにくく、持った時の軽量感から落としやすいので注意が必要です。(A)最軽量タイプ:とにかく小さく軽い。おすすめのアクティビティは、使い慣れることが条件ですが、マルチピッチクライミング、高所登山です。または、各アクティビティの予備として1〜2個携帯すると良いでしょう。また、グローブ、捨て縄(捨てスリング)、クライミングシューズ、小物をぶら下げるにもおすすめです。
(B)幅広タイプ:重量は軽量タイプと同じ程度ですが、とにかく大きいので使い勝手が良い。オールラウンドに使えますが、ワイヤーゲートのピンアンドノッチなので、ロープやスリングをひっかけやすいので慣れが必要です。最近はワイヤーゲートでも、フードワイヤー(BD社)、モノフィル(ペツル社)等のキーロックタイプも販売されています。
(C)軽量タイプ:オールラウンドに使えるフリーカラビナ。5〜6年前のものはこれよりも10グラム程度重かったですが、ここ数年でだいぶ軽量化が進みました。
商品名 | 重さ | 縦の長さ (最大値) | 横の長さ (最大値) | 開口(※)の 大きさ |
---|---|---|---|---|
(1).ナノ(nano)23 - カンプ(CAMP) | 23g | 85mm | 50mm | 25mm |
(2).フォトンワイヤーベント(photon wire bent) - カンプ(CAMP) | 30g | 100mm | 60mm | 35mm |
(3).FRY STRAIGHT - サレワ(salewa) | 35g | 93mm | 55mm | 19mm |
(4).Bionic Evo Wire Gate - マムート(mammut) | 35g | 100mm | 55mm | 24mm |
(5).フォトン(photon) - カンプ(CAMP) | 36g | 100mm | 55mm | 30mm |
(6).HOT G3 STRAIGHT - サレワ(salewa) | 43g | 100mm | 55mm | 20mm |
(7).Element Wire Gate.red - マムート(mammut) | 37g | 98mm | 57mm | 27mm |
(8).オービットワイヤー(Orbit wire) - カンプ(CAMP) | 38g | 97mm | 57mm | 35mm |
(9).Bionic Evo Key Lock Straight gate - マムート(mammut) | 44g | 100mm | 55mm | 24mm |
(10).Element Key Lock Straight Gate.red - マムート(mammut) | 47g | 98mm | 57mm | 20mm |
※カラビナを開けてロープをかける時に開いた最大値のこと。
■ 安全環付カラビナ一覧
安全環付カラビナとは、ゲートに安全環(ロック機構)があるカラビナを言います。ゲートの種類として、スクリューゲート、オートロックゲート(ツイストロック)、2段ロックゲートがあります。(A)最軽量タイプ:マルチピッチクライミング、アルパインクライミング、バリエーションルート、高所登山のために、とにかく軽量化したタイプ。小さく、ゲートの開口もしにくいので、取扱いに慣れが必要です。特に、積雪期の登山では厚手のグローブをした時に非常に使いにくくなるので注意。国内の登山ルートだと、剱岳(別山尾根)、大キレット(槍穂高縦走)、妙義山(表妙義縦走)、八ヶ岳の各種バリエーションルート(冬季)におすすめです。
(B)軽量タイプ:最軽量タイプと同様のアクティビティに最適。通常タイプとそん色ないくらいの大きさと、扱いやすいための機構が備わっているものが多い。特に、積雪期の登山でも厚手のグローブをはめたままでも使いやすいものが多い。HMSタイプのものが初心者におすすめです。
(C)普通タイプ:オールラウンドに使える安全環付カラビナ。クライミング、登山に幅広く使えます。各メーカーもっとも多くラインナップを揃え、比較的価格が安いです。
※カラビナを開けてロープをかける時に開いた最大値
形状の違いによるカラビナの種類
■ カラビナの形状
代表的なカラビナの形状は、変D型(オフセットD型)、D型、HMS型、オーバル型(O型)があり、その他メーカーによって多くの形状があります。その他の形状は、使用用途に応じた様々な形状をしています。(1)変D型(オフセットD型)(Asymmetrical "D" Shape):アルファベットのDの形状を片方が広く開口した形。荷重方向の片方が支点でもう片方がロープの場合が多い。Asymmetrical(アシンメトリカル)とは、非対称の意味。
(2)D型("D" Shape):アルファベットのDの形状。完全なD型は少ない。荷重方向が決まっている場合は、ロープや支点がずれにくく、高い強度が保てます。
(3)O型(オーバル)(Oval):陸上トラックのオーバルの形状。主に両方から荷重がかかるレスキューで使用することが多いです。
(4)HMS型:荷重方向が広く万能の形状で初心者におすすめです。クライミングを始めるなら、大小1つずつこの形状の安全環付カラビナを揃えましょう。
(5)、(6)その他:懸垂下降やクライマーを確保する際の専用のカラビナ。カラビナが反転(回転)しないように支点側に留め金が付属します。カラビナやロープの操作に慣れない初心者に向いています。
(7)その他:懸垂下降やゆっくり懸垂下降するためのカラビナ。
カラビナの機能的特徴
■ カラビナの形状と荷重方向
(1)変D型:開口部分の大きさの差が、支点が動きやすいか、動きにくいかを制御しています。小さいほうに支点(アンカー)、大きいほうにロープをかけると、ロープが左右に動きやすいが、支点のほうは動きにくいという特性があります。クイックドロー(ヌンチャク)は多くの場合この形状を採用しています。
(2)D型:開口部分が両方同じくらいの鋭角です。ロープが流れにくい(摩擦が大きい)という特徴があります。
(3)O型:両方から荷重がかかる時に使用します。両端の支点の動きがある場合に、動きにカラビナが追従する特徴があります。
(4)HMS型はドイツ語のHalbmastwurfsicherung(英語でhalf clove hitch belayという意味)の略です。意味は、ムンターヒッチで確保(ビレイ)するためのカラビナという目的から名称が付いています。ムンターヒッチ(Munter hitch)は、ロープの結び方から名称で、ハーフ・クローブ・ヒッチ(half clove hitch)、半マスト結び、イタリアン・ヒッチ(Italian hitch)等とも呼ばれ、懸垂下降やセカンドの確保、ロワーダウンの際に用いられる結び方です。これらの用途は様々な方向に荷重がかかる可能性があるために、カラビナの広がった部分の強度が均等に作られています。このメリットは、クライミングでの様々なシーンに適しているとも言えます。
■ カラビナのゲートの種類
ゲートとはカラビナの開口部分であり、ロープやアンカーにかける(セットする)時に開く部分である。大きくフリーカラビナ(下記1~3)と安全環付カラビナ(下記4~6)に分かれる。(1)ストレートゲート(Straight Gate):ゲートが棒状で直線になっていることからストレートゲートと呼びます。オーソドックスな使用感からもっとも多くのカラビナに用いられています。ロープやアンカーにひっかけやすいようにゲート部分がくぼんでいる製品もあります。
(2)ベントゲート(Bent Gate):ゲート部分が開口方向に向けて緩やかに曲がっているゲートを呼びます。ロープをかけやすいように曲がっており、クイックドローのクライマー側のカラビナがベントゲートになっている製品も多いです。ただし、ロープをかけやすいということは、ロープが抜けやすい(ゲートが開きやすい)という特徴もあるので、クライマーの登る方向やロープの引っ掛かりについて十分注意が必要です。
(3)ワイヤーゲート:軽量化のためにゲートがワイヤー状になったゲートを呼びます。ゲート自体が軽いため、衝撃によってカラビナのゲートが慣性の法則で自然に開きにくいのが特徴です。
(4)スクリューロックゲート:スクリュー(ねじ状)を回して、カラビナのゲートが開かないようにするゲートを呼びます。こういった、ゲートに鍵をかけるタイプを安全環付カラビナと呼びます。
(5)オートロック(ツイストロック)ゲート:自動でロックがかかる安全環。
(6)2段ロックゲート:ロックを解除するのに、ボタンを押したり、下に引いたりして、より開けにくくなったゲートのこと。多くの場合、このゲートは両手で開けないとあけることができません。
(7)その他:写真の例は、ヴィアフェラータ用の安全環付カラビナの例です。
(8)ワイヤーゲート ノッチ・アンド・ピン:古くからのカラビナでもっとも多い形状です。ロープやアンカー(支点)に引っかかりやすい。
(9)ワイヤーゲート フードワイヤー(ブラックダイヤモンド社):ワイヤーゲートのノッチ・アンド・ピンの引っ掛かりやすい特徴を緩和させたモデル。各メーカーから様々な対策のカラビナが発売されています。
(10)ストレートゲート ノッチ・アンド・ピン:ワイヤーゲートと同様にロープやアンカー(支点)に引っかかりやすい。
(11)ストレートゲート キーロック:ノッチ・アンド・ピンの引っ掛かりやすい特徴を緩和させたモデル。ロープがするっと流れて、引っ掛かることがない。ここ5-6年の安全環付カラビナはほとんどこの形状に変わっていっています。引っ掛かりにくく使いやすいので、初心者はキーロックを選択してみましょう。
■ 初心者におすすめのキーロックシステムとは
ここ4-5年のカラビナはこのキーロックシステムのゲートが採用されてきています。(1)・(2) カラビナを横から見てかぎ型になっている部分がキーロックの名前の由来です。
(3)キーロックシステムの特徴は、引っ掛かりがないためにロープ、スリング、アンカーボルト等にカラビナを外す・かける際に引っ掛かりにくく操作性が良いです。そのため、初心者におすすめです。
■ 高強度なカラビナ
縦方向の破断荷重が25kN以上のカラビナは、一般的なクライミングで使用する以外に、レスキュー、高所作業や荷重が集中するポイントに用いられます。(1)ガイドベットロック(guide bet lock) - カンプ(CAMP):破断荷重 縦方向32KN。77gなので、フリークライミングやアルパインクライミング等にも携行できる軽さで高強度を実現しています。マルチピッチでの確保支点、荷揚げ時の支点、レスキューでの引上げに使う支点等、ガイドやリーダー向けのカラビナです。
(2)アトラスロック(Atlas lock) - カンプ(camp):破断荷重 縦方向40KN。通常のカラビナの約2倍の強度があるので、一般的なクライミングでは必要ない強度です。レスキュー、高所作業などでの用途になります。
カラビナに関するよくある質問
Q1.剱岳や大キレット等の上級登山のためにハーネス、カラビナ等が必要だと言われましたが、何をどのくらい用意すればよいのでしょうか?
A1.上級登山の内容によっても異なりますが、剱岳別山尾根、槍穂高連峰 大キレットやジャンダルム、妙義山各ルートを想定してお答えします。これらのルートは、登山の中でも最も難しいルートの一つで、岩場、鎖場、ハシゴがルート上にいたるところに設置され、通常の登山の装備の他に、個人装備として、ハーネス1つ、ヘルメット1つ、皮グローブ1セット(両手)、カラビナ(安全環付カラビナ2個、フリーカラビナ2個)、スリング(60cm1つ、120cm1つ)が必須装備となります。Q2.なぜ難しいルートではカラビナやスリングが必要なのでしょうか?毎回使うのでしょうか。
A2.上記のQ1の各ルートでは、登山の装備以外に登攀具(とうはんぐ)として、ハーネス、カラビナ、スリング、ヘルメット、皮手袋が必要になります。ハーネス、カラビナ、スリングに関しては必須装備ですが、毎回全ての装備を使う場合は少ないです。どちらかと言うと、様々な状況に応じで使う場合があります。たとえば、(1)すれ違いや行列待ちのためにスリングと安全環付カラビナで自己確保したり、(2)岩場やクサリ場をトラバース(横切る)する時にスリングと安全環付カラビナで確保しながら移動したり、(3)雨や風等の急な天候変化に対して安全に行動するときにしようする場合があります。また、ヘルメットは落石や滑落の対策・対応のために必須装備で、皮手袋(クライミングのビレイグローブ)は必須装備ではありませんがクサリ場でクサリをつかみやすかったり、鋭利な岩角・クサリ(サビやハリガネ等)から手を保護するので、できる限り持っておいてほしい装備です。また、難所通過のための装備については、こちらのページを参照して下さい。Q3.とにかく軽いカラビナのほうがいいのでしょうか?小さく軽いカラビナは使いにくい以外にも何かデメリットはありますか?
A3.カラビナの軽量化が進めば進むほど、形状は小さくなります。その結果として、持ちにくい、ゲートの開き幅が小さいのでロープやスリングを入れにくいという、使いにくくなります。また、軽すぎると持っている感覚も少なくなってくるので、落としやすくなったり、(信じられないかもしれませんが)冬のグローブを付けていると持っているか持っていないかもわかりにくくなります。初めてカラビナを購入する際は、最軽量タイプは避けてください。Q4.同じメーカーの同じ大きさのカラビナを揃えたほうが見た目がきれいです。そんな購入のしかたで良いでしょうか?
A4.ケースバイケースですが、良い点と悪い点があります。良い点は、おっしゃる通り、見た目がきれいです。カラビナの大きさが揃っており、いかにもクライミングできそうな気もしますし、モチベーションも上がるでしょう。悪い点は、ではなぜカラビナの大きさ、重さ、形状、ゲートの種類があるのでしょうか?それは、ルートの特徴・長さ・季節といったルートに起因する場合や、自分の技術や慣れに関する場合によって、適切な道具は異なってくるという思想に基づきます。例えば、オートロックはスクリューゲートのように安全環を回す必要がなく、簡単に設置できます。しかし、これは無雪期の素手でカラビナを扱う場合に当てはまりますが、厳冬期にオーバーグローブを装着して、凍りついたオートロックをこじ開けるのはかなり苦労することもあります。以上の良い点と悪い点は一例で、モノの選択には必ず理由があります。これらのことから、カラビナを購入する際、特に初心者は、同じメーカーのもので構いませんので、大きさの違うカラビナを揃えていくことをおすすめします。例えば、安全環付カラビナを最軽量タイプ1つと軽量タイプを1つ、揃えてみましょう。きっと、本番のルートでこれらの違い(大きさや操作感)を体感することによって、より道具に対しての理解が深まっていくことでしょう。このページに関連する商品ページのリンク
エキスパートアドバイス
2016-04-11 19:58
選択方法
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